LEARN - Everest 701



Abendrot Everest 701 導入インタビュー

Blue Note Tokyo チーフ・サウンド・エンジニア 山内俊治



世界の一流プレイヤーが出演し、アジア随一のジャズクラブとしてその名を知られる、「ブルーノート東京」。その音響を支えるデジタル設備の中枢にオーディオマスタークロック、Abendrot Everest 701が導入されています。「ブルーノート東京」のチーフ・サウンド・エンジニア、山内俊治氏に同店のサウンドエンジニアリング・ポリシーと「Everest 701」の魅力を伺いました。


── ご自身のキャリアのことを教えていただけますか?

DJが流行りだした90年代にニューヨークに住んでいて、ソウルやヒップホップが好きでレコードを漁ってはサンプリングしてトラックを作ったりしていました。ジャズに興味を持つようになったのは、ジャズレコードのサンプリングにハマってからです。ジャズのバンドは、様々なプレイヤーが組み合わさるので、この人は誰、この人は誰と演奏していた誰、と覚えていくことでどんどんのめり込んでいきました。それからはニューヨークのジャズクラブに入り浸るようなってレコードとライブ三昧の日々を過ごしていて、日本に帰ったら絶対に「ブルーノート東京」で働こうと決めていました。

「ブルーノート東京」に入ったのはかれこれ15年くらいの前のことになるのですが、皿洗いからスタートしました。ホールやアーティスト・アテンドの仕事をやらせてもらえるようになり、音響の仕込みやバラシを手伝わせてもらって、それからようやく音響一本でやらせてもらえるようになりました。最初は苦労しましたが、ミュージシャンのリクエストに対応できる引き出しを増やそうと、努力はかなりしましたね。ここは海外のトップ・ミュージシャンと一緒に一流のエンジニアが乗り込みで来るところなので、彼らからオペレーション技術をたくさん学ばせてもらいました。





── ステージの音作りはどのようなこところに気を付けていますか?

この小屋は基本的に狭いし、横にも客席があります。客席がステージから近いということもあるので、なるべくミュージシャンから音が飛んでくるイメージになるように位置関係を意識して生音で足りない音を添える感じを心掛けています。
例えば、ピアノが入る編成では、生音の音色を優先するとピアノの蓋は閉めたくない。最初にピアノのマイクのマージンギリギリにどれくらい突けるかを確認しておいて、そのピアノのマイクを活かしたチューニングを行ったりしながら音をなじませていきます。マイク間の被り込みは必ずあるので、そこをいかにうまく使っていくか、どう空気感を作っていくか、というところをうまくコントロールしてフォーカスするメインに全体を寄せていきます。もちろん基本はミュージシャンの出したい音を忠実に再現してあげる事が大事なので、事前に資料としてそのミュージシャンの音源を聴いて、こんな感じの音にしたいんだろうな、という方向性を定めて、その中で自分の要素を足しながらバランスをとっていく感じです。


── こちらのコンソールにはどのようなものを使ってきましたか?

僕が入った頃には、アナログコンソールの「CREST AUDIO v12」が入っていました。アナログを使っていた人には皆分かる感覚だと思いますけど、柔らかくて存在感のある所謂、良いアナログ感がありました。その後に「YAMAHA PM5D」デジタルコンソールを導入し、今は「YAMAHA CL5」を使っています。デジタルコンソールは、最初、何か音が遠く、小綺麗で寂しい印象がありましたけど、今はもう慣れて自分の落とし所を見つけられます。デジタルのEQは、細かくいじれて追い込みができるので嫌な感じにはならないですね。





── デジタルコンソールになってから外部クロックは試していましたか?

デジタルの外部クロックは、乗り込みのエンジニアが持ってきました。「Apogee Big Ben」が最初で、それから「Antelope Audio」、「Black Lion Audio」などを持ってくるエンジニアもいましたね。サイズも小型で手頃な値段のものが出回っていることがわかったので、ここにも何か導入しようと試してみるとクロックだけじゃなく、クロックケーブルひとつでもこんなに変わるのかとわかって驚きました。そんな中、「Abendrot」 という、とんでもないマスタークロックがあるという噂を聞いて「Everest 701」を試してみました。「Everest 701」を使ったときは、それまでの変化に対する驚きというよりも単純にその出音に鳥肌が立って、とても驚きましたね。あえて言葉にすると、音に精細さが伴い、一音、一音の粒が明確に揃って“見える”ようになる。曖昧だったマイク間の被り込みも明確に把握できるようになったし、必要なものと不必要なものが正確にわかる。明瞭度が数段上がるだけじゃなく、デジタルEQの応答がすごく良くなって、オペレーションにも少なくない違いが起きました。試した後も重要な公演で何度となくレンタルをして、そのアドバンテージをしっかり整理できるようになると、いままでは雑だったな、「Everest 701」が無いともう嫌だな、と思うようになりました。





── 導入の決め手というのはどのようなものでしたか?

この建物はデッドで響かないんです。ホール・ツアーから流れてくる、特にホーンセクションのミュージシャン達から“反射がないのでどれくらい強く吹いていいのか分からない”という声をいただいていたので、小屋のアコースティックを調整しようという話が上がっていました。「Everest 701」はこの根本的な音響改善の一環として導入しました。「Everest 701」は、外部マスタークロックという位置付けの機器でありながら、決して邪魔しない、癖を出さない。それでいて存在感があり、包んでくれる。スピーカーの明瞭度も全体の鳴りも大きく改善させることができました。

以前は、“よりいい音を出してやろう”という自分のエゴイストな部分と葛藤していたところもありましたけど、よりフラットな気持ちで音に臨めるようになりました。気持ちが乗った演奏のプラスαとしてグッとオーディエンスの気持ちを掴めるようなオペレートが理想です。大勢が一体となって気持ちを合わせたとき、空気が変わります。その一体感を持てたライブは気持ちが良い。ミュージシャンとオーディエンスの集中力がすごく高まって、一音、一音に耳を凝らし、音を追いかけて、グッとみんなが揃う、その瞬間が最高なんです。常にそういうところに行けたらいいなと思いますし、「Everest 701」は、演奏をすごく自然に表現してくれてその集中力を支えてくれるんです。





── ブルーノート東京30周年という節目でありましたが、今後にどのようなビジョン持っていますか?

ブルーノート・ジャパンには、“コネクト”という、人と人、何かと何か、の間を繋いでいくという意味の理念があります。今まで関わらせて頂いたミュージシャン達は本当に良くしてくれましたし、多くの人に会って助けてもらいました。いつまで現役を続けるのかはわからないけど、自分の携わる現場では常に“ライブに来てよかった”というところを伝えることで繋いでいきたい。CDやレコードなどももちろん良いですが、ライブにはライブの魅力があります。ライブはその場にいた人達で作るものなので、普段、音楽をあまり聴かないな、音楽はわからないなという人でも実際に来ていただけたらそのライブの一体感を共有できると思います。ぜひ一度ライブを観に来ていただきたいですね。



Blue Note Tokyo : bluenote.co.jp