LEARN - Everest 701



Using the Abendrot Everest 701 with Avid VENUE I S6L

Interview with Hajime Kodama - Technical/Engineering Director, TWOMIX inc



アビイ・ロード・スタジオ、メトロポリス・スタジオなどの世界的なトップマスタリングスタジオに次々導入されているオーディオマスタークロックAbendrot Everest 701をいち早くライブサウンドのデジタルシステムに導入し、運用を始めている株式会社トゥ・ミックス。ライブサウンドにおけるEverest 701の魅力と最先端の設備を保つ同社のポリシーについて音響システムを手がける技術部長 児玉肇氏に話を伺いました。


── 現在の主なシステムを教えてください。

メインコンソールに、Avid Venue S6Lが2枚、YAMAHA RIVAGE PM10、そしてSolid State Logic SSL Live. L500 Plusを設備しています。小回りの効くYAMAHA CL5の稼働も多いですね。フラグシップ機は、バス、チャンネルが多いのでツアー内容にアリーナ、ホールがどのように入ってくるのかに合わせて選択しています。各メーカーの操作性にオペレーターの好みがあったり、イベントなどでは普及していて広く使われているものが求められたりするのでコンソールには選択肢を持つようにしています。メインのスピーカーシステムには、最新のd&b audiotechnik GSLを常備しています。


── フルデジタルのシステムにはいつ頃から移行していますか?

10年くらい前から、小屋の都合でアナログマルチを使わなければいけないとき以外はすべてデジタルで済ませています。いつの間にか世の中はデジタルに変わっていました。便利なものとして慣れた人は使えるし、慣れなかった人はいつの間にか多勢に無勢という状況になっていたという感覚です。デジタルコンソールの黎明期には、音質上の扱いがやり易くなるということで、イコライザーとデジタルコンソールとの間をあえてアナログで繋げてAMS Neve 33609などのアウトボードを嚙ます、などの試行錯誤も結構やっていましたね。





── デジタルコンソールに外部クロックは使っていましたか?

初期のデジタルコンソールにはアナログの入出力がそれまでのアナログコンソールと同じように備わって独立していたので、デジタル機器における”音質”という概念がなければ外部マスタークロックの必要はありませんでした。だから当時は特に意識することなくデジタルコンソールの内部クロックをそのまま使っていましたね。外部マスタークロックは、ライブレコーディングする際にレコーダーとの同期を取る必要があってMUTECのハーフラック製品を導入したのが最初です。5、6年くらい前のことでしょうか。きっかけはデジタル機器間の同期を取ることが目的でしたが、音質に関してもなんとなく違うね、という話が上がってそれからは色々試してみました。マスタークロックを変えると確かに音が変わる。けれどもそれはBNCクロックケーブルを変えても変わるものなので変化や差はわかるけど明確なものはないものという印象でした。たとえ差があったとしても現場ではそこで鳴っている音に反応して音を作るしかないので、慣れてしまえば無くても特に問題はないと結論付けて、音質とマスタークロックの関係に対してはそれ以降、付かず離れずという付き合い方をしていました。


── Abendrot Everest 701は、どのような印象でしたか?

音質に関してマスタークロックの良し悪しを語るのは難しいとしながらも、Everest 701は、いままでのマスタークロックとは違う雰囲気がある製品だったので、ちょっと聞いてみようということになりました。試してすぐに感じたのは、それまで聞いたことのない定位感の良さです。デジタルのシステムになってからずっと気になっていた霞みがかっているように常に高域に漂っている“何か”がいなくなることにも気がついた。その曇りが晴れることが低音に効いてくるのか、アタックのハイとローの音の粒が揃ってくる飛んでくる印象になる。オーディオ的な分離能の良さとはまた違うのですが、縦のつながりがよくなり、各楽器が何をやっているのかとても聞き取り易くなります。

Everest 701が、ルビジウムクロックを積んでいてスペック的な精度が高いというのはわかるけど、ルビジウムクロックを積んだマスタークロックを使えば同じような結果が得られるという訳でもない。測定値に関連した話ができるスピーカー製品とは違い、マスタークロック製品はジッターや位相雑音などのスペックデータと照らし合わせて音の優劣を語ることが難しい。印象を語ることしかできないですが、実際にEverest 701をマスタークロックに据えたデジタルシステムを聞くとその効果を認めざるを得なかった。デジタルオーディオシステムが限りなくアナログオーディオに近い音に変化するのが面白い。





── 実際のワークフローで恩恵を得ることはありますか?

音響調整の際、無理にEQの上げ下げをしなくてもよくなり、特に低域の修正ポイントが減ります。音響調整のEQは、レコーディングやミキシングで行うEQとは違い、小屋の鳴りを抑える“それしかない手段”として触ります。低い帯域の減衰が弱いところは残ってしまうので、そこをEQでカットしながらごまかしていく訳です。ボワっとしているところをカットしていかなければいけないところが、Everest 701の低域の立ち上がりの良さによって気にならなくなる。低音が溜まらずポンと鳴ってくれることでカットする必要がなくなる訳です。最終的な調整は耳で決めるのでたとえ印象の違いであってもその効果は実感できます。修正する低域のポイントが少なく抑えられることに越したことはないので、ごまかしの作業が減ってオーバーEQにならない、という点だけにおいても全体のクオリティーは向上します。


── Everest 701をどのようにシステムに組み込んでいますか?

基本は2台のEverest 701をAvid Venue S6Lのシステムにそれぞれ組み込んで使っています。Abendrotの マスタークロックを効果的にシステムに組み込むにはどうしたら良いかを考え、Danteネットワーク内にDanteクロックマスターにするワードクロック入力を持ったDante I/Oを一台用意して、そこにEverest 701からの96kHzのワードクロックを注入しています。Avid Venue S6L、YAMAHA RIVAGE PM10などのコンソールから、d&b audiotechnik GSLのLAKEに至るまで全て96kHzで動作するので、Danteは、96kHzをデフォルトにしています。48kHzのデジタルコンソールがシステムに入る場合は、わざわざ48kHzに落として出し入れすることを避けるため、そこだけネットワークから切り分けてアナログで繋げたりすることもあります。コンソール側をメインにDante機器が集まってくるイメージのシステムであれば、ワードクロックをコンソールで受けて、コンソールをDanteのクロックマスターとして組んでもよいと思います。

Abendrot Everest 701は、昨年のさいたまスーパーアリーナでの『水樹奈々 S.C.NANA NET ファンクラブイベントⅦ』や、『長渕剛 年末ライブ 2017年 鹿児島アリーナ カウントダウン』のコンサートあたりから使い始めていますが、Dante 96kHzの環境でトラブルなく運用しています。今はすっかり慣れて得に意識することなく使っている感じです。





── 積極的に新しい機材に更新されている理由を聞かせてください。

新しい機材は同じ労力でやれることが増えていくのでどんどん更新して行くしかない。ラインアレイも今は3世代目で、一台あたりのパワーが上がりながらも重量的に釣り易くなっています。また、DSPソフトウェアで会場に合わせた音圧分布などを事前にシミュレーションして細かく制御できるので、スピーカーを組み上げた段階で最初からそれなりの音を出すことができる。スピーカーメーカーが新しい製品を出すときはそれまでのユーザーフィードバックを元にした改良版なので、大抵良いことがあるんですよ。メーカーによってソフトウェアの使い易さや、できる、できないのポイントに違いはあるので、そこは事前にデモして一番良いものを導入するようにしています。


── 新しい機材は仕事を楽にさせてくれますか?

デジタル技術は昔より様々なことができるので、むしろより手間が掛かります。でもそこは一生懸命取り組むところです。“以前はこれしかできなかったことだから、今日もそれでよい”というようには考えていません。例えば、昔はアリーナの2階席がよく聞こえなくてもそれはしょうがないで済みましたが、今はそうはいかない。PA席での音があまり変っていなくても、全体のサービスエリアは均一になりました。ここは昔よりかなり進歩しているところです。

メインのシステムは限りなく理想に近いところまで来たと思っています。けれどもAbendrotマスタークロックのように今までのものは一体なんだったんだ?というような機器が将来、突然出てきたりする可能性はまだあると考えています。環境を作る立場としてはより良い製品の登場に日々思いを巡らせ、これからも現代に考えられるベストな音響システムで臨みたいと思っています。



児玉肇
http://www.twomix.co.jp/index.html