LEARN - Everest 701


Interview with Hisaaki “K.M.D” Komatsu




LUNA SEAを始めとする日本のトップアーティストのFOHエンジニアを手がける小松 “K.M.D” 久明氏は、Abendrot Everest 701マスタークロックのユーザーです。中野サンプラザでの河村隆一コンサート現場にて、デジタルコンソールとマスタークロックの関係、そしてEverest 701の魅力を伺いました


── 本日のセットアップ教えてください。

Yamaha PM5DをAbendrot Everest 701のワードクロック出力、48kHzでロックしています。もうひとつの10Mリファレンス出力の方をAntelope Isochrone OCX に送って、そのワードクロック信号をマルチエフェクターとして使っているApollo 8に96kHzで送っています。ワードクロック出力は、Everest 701直でも、Isochrone OCX経由でも出せますが、確実にAbendrot Everest 701の方が良いですね。ここは色々な機種との組み合わせを試しているところです。


── すでに様々な現場で使われているとのことですが、印象を教えていただけますか?

Abendrot Everest 701の第一の印象は、“すごく音楽的なまとまり方をしている”。例えばCD再生でチェックしても、本当にその音楽をスタジオで録ったミュージシャンの感覚を呼び起こしてくれるような感じがある。ドラムの拍の裏はどの様に叩いているのか、ギターのカッテイングをどの様に入れているのかもすごくよく分かる。2ミックスされたときの一番ピュアな音が再現されているように感じますね。デジタルで失われてしまう情報を呼び起こしているような印象です。

もちろんコンサートは、CDを再現している訳じゃない。ひとつひとつのマイクを卓に入れてミックスしているのが僕の立場です。ロックバンドで使っていますが、低音とかの分離感がものすごく気持ちよくて、実が締まったような感じがあります。僕は、バスドラやベースは、聴くというより身体の震動でどう気持ちよく鳴っているのかの体感を頼りにしているんですが、混ざった時の音と音のくっつき方やスキマ感がものすごくよく分かる。バスドラとベースがどれだけくっついているのか、離れているのかという肝心で微妙なところ・・・、分離感や奥底にどんな感じで入ってきているのかがハッキリとわかります。そして、自分がアベンドートに踊らされているんじゃないかと思うほど、ミックスが楽しくてしょうがない!自分で音を触っていって表現できる音の重なり方の美しさといったら、いままでどんな機器使っても体験したことのないものです。


──以前から外部マスタークロックへの関心はありましたか?

20年ほど前、Pro ToolsやOTARIなどのデジタルマルチトラックレコーダーが出てきた頃は僕もレコーディングの仕事などもしていたので、デジタルオーディオに対してのマスタークロックの関係というのは体感していました。外部マスタークロックに繋げると“なんか違う”。“変わる”。デジタルはアナログよりわがままだな、奇妙だなと思いながら、いろんなデジタル機材に繋げてみるというのをやっていましたよ。ライブコンソールがデジタルになってからも、思い出したように様々なマスタークロックを出してきては繋げてみて、やはり“なんか良いな”というところで使ったりしていました。でも“好みの音になる”、“すごく良くなる”というようなものではなく、“なんか良いな”という程度の話です。ここがアベンドートマスタークロックを評価しているところで、Abendrot Everest 701 は、“圧倒的に良い”。群を抜いているんです。


──デジタルコンソールはいつ頃から使われていますか?

2000年の最初のデジタルコンソールYamaha M7CLから使い始めて、その後にYamaha PM5Dが来ました。その後、各ライブコンソールのメーカーがデジタル卓を始めましたから、今では3割くらいをデジタル卓でやっていた時代から逆転して、9対1くらいになっています。最初は正直、デジタル卓は音が薄いなと思いながらやっていました。でもデータの保持ができる、前回のミックスデータをキープして次のコンサートに持って行けるというのは魅力的で、美味しい味噌作るような感覚で自分の音色を濃くしていくことができる。これはアナログ卓でもできないことではないけど、紙に書いて完璧にリコールしていくことは、恐ろしく大変です。これをすぐできる、積み重ねていけるというのは革新的なことでした。

音に関していうと、アナログコンソールは音の肉薄感とか音の深み、太さというのがやはり圧倒的に違います・・・、上だなと思います。以前、大黒摩季のコンサートでは、アナログのMidas Heritage 2000でツアーも回っていました。けれども今となっては運ぶのにも、設置するスペースを確保するのにも本当に大変です。ラスベガスのショウでは、ライブコンソールにSolid State Logic 4000Gを使っていたりするので、僕もそれでアリーナツアーをミックスして回るというのはひとつの夢ではあるんですけど、現実、今どちらの卓を使いますかと聞かれたら、僕はデジタルコンソールを選びます。


── 今日のYAMAHA PM5Dは今でもよく使われますか?

もう古いコンソールではあるんですが、自分の感覚の中に全てが収まっていて全部が”わかる”。アナログコンソールを使っていた感覚は自分の身体の中に残っているので、デジタル卓のよいところをうまく引き出すことで、デジタル卓でもアナログに近い音が出せるのではないかと思ってミキシングをしています。そのコンセプトからするとPM5Dは、新しいデジタル卓と比較しても本質的にミキシングコンソールとしての機能に損傷はないんです。加えて15年近く経っているにもかかわらず、フェーダー、エンコーダーのひとつも故障、交換した記憶がない。そういう信頼感もあります。ローリング・ストーンズのチームなんかは、昔のYAMAHAのアナログコンソールPM4000から今も変わっていなかったりする。ポリシーをもっているチームは変えていかない。これはすこし哲学の世界のようなところもあります。


── Abendrot Everest 701 を使うようになって気がついたことなどはありますか?

わかったことは、Abendrot Everest 701がデジタルコンソールをアナログに近づける”鍵となる機器”だということ、そして僕達はアナログに近づきたいんだなということです。デジタル機材が正確に動いているのかどうか。アナログがデジタルにキレイに入ってキレイに出るということとはどういうことなのか。まだまだ欠落している情報がたくさんあったんだということ。僕自身もAbendrot Everest 701で実際にミックスを行ってみるまでわからなかった。最初は、海のものとも山のものともわからないマスタークロックが280万円というのは高いと思いましたよ。でも最新のデジタル卓を導入すると2,000万円近い投資が必要になります。アベンドートが入ることで、いままで使いなれたデジタルコンソールが最新のデジタルコンソール以上のサウンドに向上する・・・、なんか変わった、好みの音になった、というようなレベルではなく確実に向上する。コンサートにおける設備の考え方としては、決して高い物ではないと思えましたね。これからの将来もライブコンソールはデジタルであることに変わらない。アナログの時代を知っているエンジニアは一度試してみる価値があるマスタークロックだと思います。



小松 久明(こまつ ひさあき)
ヤマハ音楽振興会音響部にて12年間エンジニアとして勤務したのちに独立し、有限会社オアシスを設立。これまでに大黒摩季、LUNA SEA、河村隆一、INORAN、BAROQUE、手嶌 葵、石野真子など、幅広いアーティストのライブサウンドを手掛けるほか、洗足学園音楽大学 音楽・音響デザイン客員教授として後進の指導にもあたる。